骨形成不全症の女性とパートナーが語る、性生活で「骨折しない」方法

「解決策は、自分にパートナーの全体重がかからない方法を探すこと」
NO
translated by Nozomi Otaki
Couple embracing in bed with brittle bone disease osteogenesis imperfecta

骨形成不全症(Osteogenesis imperfecta: OI)は、骨、軟骨、筋肉、皮膚、腱などの組織に柔軟性を与える成分であるコラーゲンに異常が生じる遺伝性疾患だ。

専門家は10種類以上のOIを確認していて、遺伝子的原因や症状はそれぞれ異なる。発症頻度は約2万人に1人とされる。症状の個人差は非常に大きく、家族間でも病症や重症度に大きな幅がある。しかし、大抵の場合は人々の生活、そして性生活に多大な影響を与える。

OIは〈brittle bone disease(直訳:骨脆弱性疾患)〉とも呼ばれる。最も多くわかりやすい症状のひとつが骨の脆弱化で、骨折したりヒビが入りやすくなり、徐々に湾曲していく場合もある。比較的軽症なら、一生のうちに2〜3本の骨が折れるだけで、思春期を過ぎれば骨折することはない。しかし、もっと重症の場合は何百回も骨折し、椅子から落ちただけで簡単に骨が折れてしまうこともある。骨の脆弱性への不安から、OIの人々の多くは、身体に大きな負担を与える性行為や体位に対して慎重にならざるをえない。危険性を考慮して、性行為を完全に避けるひともいる。

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この疾患は高確率で低身長、関節の問題、筋力低下、皮膚の過敏反応を伴うため、結果としてある一定の体位をとったり持続するのが難しい、もしくは完全に不可能になってしまう。呼吸や心臓の問題や疲労の原因となり、性的な持久力に影響を与えることもある。さらに、加齢とともに難聴や視覚障害を引き起こし、性行為中の体験やコミュニケーションに支障をきたす場合もある。

さらに、身体的な違いへの偏見や骨折のリスクに対する過剰な不安によって、OIの人々は他人に幼児扱いされ、自分が望む以上に慎重に扱われたり、セクシュアルパートナーの対象外とみなされたりする可能性もある。これらの身体障がい者差別的な態度は、セクシュアルパートナーを見つけるプロセスを複雑化したり、自己認識や自尊心の悩みを誘発、助長し、結果として性的興奮や性行為に悪影響を及ぼしかねない。

OIの根本的な治療法はまだないが、効果的な治療、健康的なライフスタイル、自己認識、直感的な判断によって、症状を完璧にコントロールすることは可能だ。しかし、セックスへのアプローチに関しては、医療専門家からも助言を得ることは難しいという。その理由のひとつは、このテーマに関する研究がまだ少なく、たとえ相手が医師であってもセックスについて話すのは気まずいというひとが多数派だからかもしれない。

近年、このような沈黙や偏見と闘うべく、セックスにまつわる実体験を共有し始めるOIの人々が増えている。しかし、これらの共有の機会はごく稀だ。対話の欠如に向き合うため、今回VICEは、OIのメンタルヘルスカウンセラー/性科学者のミシェル・フィナンとその夫のクリスに、性生活へのアプローチについて話を聞いた。

インタビューの内容は、長さの調整と意味を明確にするために編集しています。


ミシェル:家族内でOIを発症したのは私が初めてでした。自然発生的な遺伝子の突然変異が原因でした。私が2歳頃に2度目の骨折をするまで、両親も私もこの病気に気づきませんでした。私のように、幼少期から長い骨の極端な変形や低身長などの明らかな症状がない軽度のOIの場合、このような骨折は児童虐待によるものとみなされがちです。ですから、私の家族がOIに詳しい医者を見つけ、素早く正確に診断してもらえたことはとても幸運でした。

これまでに、長い骨だけで30回以上骨折してきました。手足の指や肋骨は入れていません。子どもの頃は、OIによる脊椎側弯症の治療のための脊椎固定術など、大きな手術を何度か受けました。何度も骨折の治療や手術を受けたので、高校までは車椅子を使っていました。さらに、靭帯や肉離れ、関節過可動性などの問題もありました。今は難聴も少しあります。脊椎側弯症の影響で胴が平均より短く、肺いっぱいに息を吸い込むことができないため、COVID-19のパンデミックはかなりのストレスでした。

子どもの頃は、ずっとパートナー探しに取り憑かれていました。壁といちゃついてみたりとか。私の障がいはパートナーを探すのに妨げになるかもしれないとも思っていました。社会は基本的に障がいのある人々を、恋愛をする性的な存在とはみなさないかもしれません。しかも、私はそこに難病という条件が加わります。子どもの頃は、自分のような見た目や同じ境遇にいる知り合いはひとりもいませんでした。セックスや恋愛は、他の障がいのあるひとならできるかもしれないけれど、自分は当てはまらないだろうと思っていました。それに行為中に骨折や肉離れなどケガをしてしまうことも心配でした。こういう不安について相談できるような、同じ病気でセックス経験のある知り合いもいなかったので。

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もう少し大きくなると、〈OI Foundation〉のカンファレンスに参加し、同じ病気の人々と交流するなかで、パートナーや子どものいるひとを見かけるようになりました。つまり、少なくとも何人かはセックスをしているということです。そのことを知れて救われました。でも、自分の不安と向き合うことに関しては、私はずっと回避傾向にありました。例えば、学生時代は必要以上に車椅子に乗っていました。だって立ち上がらないなら転ぶこともないでしょう? だからセックスを含め、骨折のリスクがあると思うスキンシップは全て避けていたんです……クリスに会うまでは。

クリス:僕たちは20代のときにマッチングサイトを通じて知り合いました。しばらくは会話を重ね、初めてOIの話題が出るまでに強い絆が生まれました。ミシェルが子どもの頃しばらく車椅子に乗っていたと教えてくれたのをきっかけに、そのことについて話すようになりました。

ミシェル:最初は他のひとにOIの話はしませんでした。まず私の性格に魅力を感じてもらえなければ、私という人間の繊細な部分をさらけ出すことができないような気がしたので。相手が怖がって逃げるのか、それとも留まるのかを見極める、ある種のテストとして使っていました。

クリス:大半のひとと同じように、僕もミシェルに会うまではOIのことをほとんど知りませんでした。僕が知っていたのは、残念ながら『アンブレイカブル』に出てくるサミュエル・L・ジャクソンのキャラクター、ミスター・ガラスだけ。しばらくしてから、この作品のOIの描写がいかに間違いだらけかに気づきました。

その頃にはこの関係がとても大切なものになっていたので、先に進む準備ができていました。でも、直接会う前にこの病気について自分で調べるのは少し躊躇っていました。もし調べていたらきっと自信をなくしていたと思うので、正しい選択だったと思います。なので、ミシェルのOIがセックスにどんな影響をもたらすのかはあまり理解していませんでした。彼女が病気について話してくれてからすぐに会うことを決めましたが、実際に会うまでは何もかもが曖昧なままでした。

スキンシップについて考えるようになったのは、僕たちの体格差を目の当たりにしたときからです。僕は身長198センチで体重136キロと、かなり大柄です。ミシェルは僕より60センチくらい背が低く、とても小柄です。でも、それについてはあまり心配していませんでした。実際に関係を進めるまでは、OIやそれに関する何かがセックスに与える影響についてほとんど話さなかったように思います。会話はたくさんしていたんですけどね。

ミシェル:当時の私は問題を避けてばかりいたので、セックスがOIにとって何を意味するのか考えたことはありませんでした。問題ないふりをしていれば大丈夫だろうと思っていたんです。私たちが出会った頃は、しばらくケガもしていませんでした。これはOIにはよくあることです。幼少期や思春期を過ぎれば安定するんです。

いざセックスを始めたら、もうためらうことはありませんでした。

クリス:僕たちはほとんどの20代と同じようにセックスしていたと思います。でも、自分の体格についての不安はずっと心の底にありました。なので、最初から彼女に体重をかけすぎないように気をつけていました。どんな状況でも、自分の体格を意識するようにしていますけどね。

ミシェル:でも、まだ付き合いたての頃、セックス中に彼の体重が少し私にかかりすぎたことがありました。結局、私の肋骨が折れてしまったんです。正直、私たちの性生活でそんなことがもっと早く起きなかったのは、クリスが自分の体格や身長を意識してくれたおかげです。骨折したとき、クリスにはそれを教えずに、途中で止めました。雰囲気を壊したくなかったし、エンドルフィンは最高の鎮痛剤ですから。大丈夫、しばらく痛みは感じないはず、と。

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クリス:付き合い始めた頃、君がこういうことを伝えるのをためらっていたのは、僕たちの間にまだ十分な信頼関係がなかったということもあると思う。

ミシェル:そうだね、私もそう思う。

でも、肋骨が折れたことで、障がいを突きつけられたような気分でした。自分がセックス中にできることには限界があると思い知らされ、それを受け入れざるをえませんでした。障がいがある場合、セックスとどのように向き合うべきかということに焦点を当てながら、セックスを(学問的に)研究したことが、大きな助けになりました。そのおかげで、自分の病気に真正面から向き合えたので。学生時代にも、さまざまな身体障がいに対応する独創的な体位のとり方についてリサーチしていました。

クリス:100%の信頼関係を築けたと実感した瞬間から、ミシェルはセックス中に問題が起こりそうなときはすぐに教えてくれるようになったと思います。ミシェルはコミュニケーションの達人なので、セックス中に問題が起きることは全く心配していません。OIのことでも何でも、すぐに話し合って解決できるとお互いを信じているので。

彼女がOIとの生活についてもっとオープンに話すようになってから、彼女の性欲はまさに天井知らずです。包み隠さずに話せる自由が生まれたみたいな感じで。

ミシェル:もう問題ないふりの演技をする必要がなくなったからです。本当の自分を見せることができた。ずっと周りに知られたら性生活の妨げになるかもしれないと不安でしたが、そんなことはなく、障がいと向き合うことで、セックス中の自分の存在感や快感を高めることができたんです。

セックス中に私のOIがもたらしうる影響について、じっくり腰を据えて話し合ったことは特にないと思います。ケガを防いだり、別の時にしたケガに対処するために、途中で直感的に体位を変えています。障がいとともにあるセックス──そして生活において重要なのは、うまくいく方法を手探りで見つけることです。私たちはただ最中にそれを感じ取り、すぐにお互いを導いているんです。

クリス:ミシェルがセックスを楽しんでいなければ、僕も楽しめません。彼女に何か違和感があったなら、僕も同じです。だから、手探りで進みつつ、臨機応変に対応するようにしています。

ミシェル:骨がもろいひとにとっての解決策は、自分にパートナーの全体重がかからない方法を探すか、少なくとも自分にどれくらいの力が加わっているかを相手に意識してもらうことなどです。

クリス:僕たちにとって最大の解決策は、どの体位がミシェルの背中にどれくらいの負荷を与えるかを意識することです。彼女の背骨はロッドと連結しているので、大きくは曲げられないんです。

ミシェルが今しているケガや今するべき手当て、ケガを避ける方法などについて日常的に話し合っているので、行為中も自然とそういうことを意識します。例えば、日常生活では抱き上げないでほしい、とか。

ミシェル:それはあなたの背が高すぎるから!

クリス:だからセックス中もしないようにしています。どれくらいの強さで抱きしめていいかもわかっています。

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「どの体位が痛みや不快感をもたらすかを分析し、セックスの痛みを和らげる効果を踏まえて、試す価値があるのか検討したりもします」

ミシェル:ケガの治療中には、どの体位が痛みや不快感をもたらすかを分析し、その痛みが行為を断念するほど耐えられないものなのか、それともセックスの痛みを和らげる効果を踏まえて、試す価値があるのか検討したりもします。鎮痛薬を使っているときは、その薬が自分の快感に影響を与える可能性を考え、適した方法について説明するようにしています。ありがたいことに、痛みや不快感にはそこまで悩まされていません。

クリス:もちろん、ミシェルは痛みを感じないわけではないですよ。

ミシェル:ええ。考えてみると、痛みを感じることは多いです。でも、うまく対処できるようになりました。

クリス:行為中のペースや限度については、ミシェルに完全に任せるようにしています。

ミシェル:行為中はとにかく注意が必要です。でも、私の経験上、それはその時の親密さや快感を高めてくれるもの。私は身体への意識を高めなければならないことを、性的な特権として捉えています。

クリス:ここ最近の性生活における唯一の問題は、妊娠でした。

ミシェル:ええ、最初に妊娠したときは、エコー検査で娘が子宮内で大腿骨を骨折していることがわかったんです。職場に行くときも衝撃を避けるために揺れの少ない道を選んだりと、ものすごく気をつかっていたにもかかわらず。

それで娘もOIだとわかって、彼女の症状は私以上に深刻かもしれないと心配しました。それに、大腿骨骨折の痛みは私自身よく知っています。彼女が骨折中にはなんの喜びも感じられないだろうということ、私たちには何も力になれないで無力感を覚えたこと、それからどんな行動が彼女に影響を与えるのかわからず不安だったこともあり、妊娠中はセックスを控えることにしました。

クリス:ふたりで話し合って決めたことです。脳のその部分の〈オフ〉にしたんです。

ミシェル:2人目の子のときは、エコー検査で骨折は見当たりませんでした。それでも心配だったので、やはり妊娠中は控えることにしました。

クリス:でも、どちらの子が生まれたあとも、僕たちは他の親たちと同じくらいすぐにセックスを再開しました。ミシェルは母乳で育てていたので、カルシウムが不足してケガをしやすくなる可能性もあり、心配事は増えました。でも、それは行為中に普段より少しだけ安全に気を配ればいいだけの話です。

ミシェル:年をとるにつれて、OIによる性生活での制限が増えていくことは予想がつきます。

クリス:確かに、ミシェルの骨密度の低下に伴うリスクが増えていくことは、年とともにより意識するようになっています。大半のひとがそうだと思いますが、僕たちが肉体的にいちばん強かったのは20代でした。だから、いつかまた肋骨の骨折のような事件が起きるかもしれません。

ミシェル:今の私なら、そんなことが起きたらすぐにクリスに打ち明けるでしょうけど。

クリス:でも、今のところは、性生活でもそれ以外でも、僕たちは自分たちを普通のカップルだと思っています。 

ミシェル:ええ。そもそも普通(ノーマル)の定義って何? ノーマルはただの洗濯機のコースの名前でしょ(笑)。