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監督エミリー・カイ・ボックが語る、アーケード・ファイアのMV制作エピソード

昨年公開されたアーケード・ファイアのミュージック・ビデオ「Afterlife」。本MVを手がけたカナダ出身、女性映像監督エミリー・カイ・ボック。数々の名MVを手掛ける彼女が語るMV制作秘話を掲載。

英グラストンベリーフェスティバルのヘッドライナーに決定し、7月にはフジロックフェスティバルでの来日も決まっているアーケード・ファイア。彼らにとって昨年(2013年)は多作かつ非常に重要な1年であった。 10月にリリースされたニューアルバム『Reflektor』のプロモーションのために精力的にツアー/ライブを実施。タイトルトラックである「Reflektor」のミュージックビデオ(MV)加え、29分にわたるコンサート映像「Here Comes The Night Time」をリリースした。さらに日本も含め、各地で話題となったのが同アルバム・ナンバーのひとつ「Afterlife」の最新MVだ。カナダ出身の女性監督エミリー・カイ・ボック(Emily Kai Bock)がディレクションし、本国The Creators ProjectがプロデュースしプレミアムMVとして公開された(2013年11月時点)。

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カイ・ボックはこれまでにグライムス(Grimes)の「Oblivion」、グリズリー・ベア(Grizzly Bear)の「Yet Again」など多くのミュージック・ビデオを手掛けてきた。「MV界のソフィア・コッポラ」と評されることもあるように、彼女の作品は各シーンの評論家、ミュージック・ファンから非常に高い評価を得てきている。「Afterlife」では、カイ・ボック特有の繊細で美しいタッチとノスタルジックな世界観が描かれている。「夢」と「現実」が交錯するなか、ストーリーの軸となるのは恋愛や家族の絆について。同郷であるアーケード・ファイアのMV制作は、彼女にとってよりシンパシーを感じるものであったに違いない。

トピック自体は昨年に公開されたものではあるが、今回ここで改めてカイ・ボックのインタビューを紹介したい。「夢」をテーマにしたストーリー表現の難しさや、貴重なカメラを砂の上に引きずって撮影したという制作エピソード。そしてこれからの活動についてなどを語っている。

INTERVIEWエミリー・カイ・ボック(Emily Kai Bock)

「人が夢を見ている時は、その世界は現実の世界に見えていると思う。

私が感じるのと同じくらい、夢をリアルなものに見せたかった。」

このビデオのアイデアはどのように考えついたのですか?ストーリーの制作にはバンドはどれくらい関わってるんでしょうか

バンドのマネージメントが連絡してきた時、最初は何についての話だか知らなかったの。それからモントリオールでウィン・バトラー(メインボーカル)に会ったわ。私も彼もモントリオールに住んでるの。先に曲を送ってもらっていなかったから、彼らのオフィスで聴かせてもらった。一度しか聴くことができなかった。だから、最初はその第一印象だけでアイデアを考え始めたのよ。

でもその第一印象は私に一つのアイデアをもたらしてくれたわ。映像は楽曲の壮大な感じとマッチするようなものでなければいけないということ。そしてビジュアル的には、美しくてゆったりとしていて、それでいて壮大な感じ。私のアイデアは、一つの恋愛関係と、それが日常の世界を超えて別の世界に向かっていくというものだったの。

MVの中で「夢」を扱っていますが、夢の映像的解釈に影響を与えたような個人的な経験はありますか?

この曲を母親に聴いてもらったの。そしたら彼女はこう言ったわ。「これは恋愛関係についての曲ね、それは間違いないわ」。それからアイデアの一部を一緒に考えてくれた。そうやってアイデアを考え始めた頃に、奇妙な夢を見ることが多くなってきて、そのことが少し気になっていたの。それからそれがどんな夢なのかをもっと詳しく知りたいと思うようになった。それと同時に映像の中で「夢」を表現する美学について、ちゃんと理解したいと思ったの。

人が夢を見ている時は、その世界は現実の世界に見えていると思う。ポップカルチャーの中で何百万回も見るような、低俗なものでもないし、物凄い驚きがあったり、デジタルで表現されるようなものでもない。夢を見ている時、私はそれが現実の生活だと確信している。だからこそこの映像を観る人たちに、登場人物たちが夢を見ているように見せたくなかったの。私が感じるのと同じくらい、夢をリアルなものに見せたかった。

モノクロ映像を使ったのは世代を分けたいと思ったから。父親の夢はモノクロで、息子たちの夢はビビッドな色で、という感じにね。親たちが夢を見るということと、子どもたちが夢を見るということを比べてみたらどんな違いがあるんだろう、それってどんな感じなんだろうって考えるのが好きなの。

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次に撮影について教えてください。どこで撮影したのか? クルーの規模はどれくらいか?このMVを特別なモノにしたのは何なのか?

世界に3台しかないという貴重な65mmカメラで撮影したわ。言うべきじゃないと思うんだけど、採掘場で砂の上を引きずりながら撮影したの。「このカメラで『ダークナイト』(※1)や『2001年宇宙の旅』(※2)を撮影したのね」なんてことを考えながら。今回使用したカメラは70年代のカメラで、NASAの装置みたいな形をしてる。それでいて最高の解像度で撮ることが出来る。規模の大きなアクションの連続シーンを撮影する時にはこの65mmを使うのよ。とにかく今回必要だった壮大な雰囲気を撮影するのにとても役立ったわ。

YouTubeミュージックアワード(※3)でスパイク・ジョーンズ(※4)がライブミュージックビデオ用に手掛けた「Afterlife」についてはどう思いましたか? 彼の曲の解釈で一番良いなと思ったところは?

最初にその話を聞いた時、すごくドキドキしたわ。だって私がミュージックビデオを作り始めた理由の一つは彼だったんだから!ちょうどLAでビデオを完成させて、観ていたところだった。(曲の解釈について)もしそれがライブじゃなかったら、その解釈を是非知りたいと思うわ。ライブってことになると、状況が違えば、ストーリーも全く違うものになってしまうもの。とにかく自分の作ったものをどうやってライブパフォーマンス用にするかなんて私には全くアイデアが浮かばないわ。

次はどんな作品を手掛ける予定ですか?近い将来またミュージックビデオを作る予定は?

しばらくは短編映画をやろうと考えてる。「Afterlife」を撮影していたときに、「音」というような撮影における特定の側面について、すごく興味を持ち始めたの。今回テーブルを囲んで家族が話をしているシーンで、彼らの声を捉えることにとにかく集中した。そういうことでちょっと遊んでみたいかな。それが将来の短編映画のひとつになる予定。

YouTubeミュージックアワードでの、スパイク・ジョーンズがディレクション、グレタ・ガーウィグ(と天使のような顔をした子どもたち)が出演したアーケード・ファイアの「Afterlife」のライブパフォーマンスは要チェック。

脚注:

(※1)ダークナイト:クリストファー・ノーラン監督による『バットマン ビギンズ』から再スタートした新生バットマンシリーズの2作目(2008年公開)

(※2)2001年宇宙の旅:アーサー・C・クラーク(脚本)とスタンリー・キューブリック(監督/脚本)によるSF映画(1968年公開)

(※3)YouTubeミュージックアワード:過去1年間にYouTubeで世界的にヒットしたアーティストや音楽を讃えるイベント。本イベントのクリエイティブ・ディレクターを努めた スパイク・ジョーンズの企画による、ライブを「ミュージックビデオ」風に撮影するスタイルのパフォーマンスが話題となった

(※4)スパイク・ジョーンズ:アメリカの映画監督・脚本家・プロデューサー・俳優。新作『her/世界でひとつの彼女』は6月28日(土)から日本でも公開